基礎から学べる! 代数学2 環と体とガロア理論(雪江明彦・著)ブックレビュー・書評 - 高井セミナー

基礎から学べる! 代数学2 環と体とガロア理論(雪江明彦・著)ブックレビュー・書評

レビュー

代数学2 環と体とガロア理論(雪江明彦・著)(通称,青雪江)のブックレビュー・書評です.

おすすめ対象者,満足度

大学3,4年(数学科は大学2,3年).高専4年以上.

群論の勉強が終わった人.環,環上の加群,体,有限次のガロア理論を初めて勉強する人.

満足度:☆4.3(☆5つ中)

基本情報

タイトル:代数学2 環と体とガロア理論

著者:雪江明彦

出版社:日本評論社

目次

第1章 環論の基本
1.1 環の定義と準同型
1.2 多項式環・整域
1.3 部分環とイデアル
1.4 剰余環
1.5 dual numberの環と微分
1.6 環の直積
1.7 素イデアル・極大イデアル
1.8 局所化
1.9 可換環と代数幾何
1.10 非可換環と表現論・整数論
1.11 一意分解環・単項イデアル整域・ユークリッド環
1.12 正規環・既約性の判定
1.13 ネーター環・アルティン環
第2章 環上の加群
2.1 行列と線形方程式
2.2 行列式
2.3 環上の加群とベクトル空間
2.4 部分加群と準同型
2.5 準同型と表現行列
2.6 GLn(Z/mZ)
2.7 有限性
2.8 組成列
2.9 ネーター環上の加群
2.10 テンソル積
2.11 双対加群
2.12 単項イデアル整域上の有限生成加群
2.13 完全系列と局所化
第3章 体論の基本
3.1 体の拡大
3.2 代数閉包の存在
3.3 分離拡大
3.4 正規拡大
3.5 有限体
3.6 無限体上の多項式
3.7 単拡大
第4章 ガロア理論
4.1 ガロア拡大とガロアの基本定理
4.2 対称式と交代式
4.3 終結式・判定式
4.4 3次方程式と4次方程式
4.5 3次多項式のガロア群
4.6 ガロア拡大の推進定理
4.7 円分体
4.8 作図問題
4.9 クンマー理論
4.10 方程式の可解性
4.11 正規底
4.12 トレース・ノルム
4.13 ヒルベルトの定理90
4.14 クンマー理論再考
4.15 アルティン-シュライアー理論
4.16 4次多項式のガロア群
4.17 代数学の基本定理

(日本評論社サイトより引用)

評価,感想

環論,体論,ガロア理論を初めて勉強する人に初めに手に取って欲しい教科書の1つである.群論を勉強したことがない人は,この本を読む前に群論を勉強して欲しい.この本のシリーズで「代数学1 群論入門」(レビューはこちら)があるので,その本から勉強すると流れが自然である.実際,私はこの雪江先生の代数学1,2で勉強した.私の学部では,代数学の授業が大学3年の前期に1科目だけあったのみで,満足に勉強ができなかった.この本を自分で頑張って読んで,(ときには先生に質問して)大学4年生の間に読んだ.この本を読み終えたことにより,これから代数のどの分野を勉強するときにも必要な基礎的知識が身についた.

良かった点

・例が豊富であり,行間がそれほど多くない.証明が丁寧に書かれている.

・「代数学1 群論入門」の続きとして読め,流れがうまくまとまっている.

・読み飛ばしても良い節にマークがされており,目的によって読み方を変えられる.

・応用上使うであろう内容が豊富に書かれている.

イマイチな点

・演習問題が初学者にとっては難しいものが多い.

・演習問題の解答が省略されている部分が多々あり,独学に使うには難しい人もいるかも.

・証明が少し冗長になっているところがあり,少しくどいかもしれない.

・たまに,「代数学1 群論入門」の定理などが用いられるため,この本単体で読むには厳しいかもしれない.

環や体は現代の数学のもっとも基本的な代数系の一つである.特に,環はそれ自身まだまだ研究されている分野であるし,体もガロア理論を組み立てる上で必要である.この本には,どの分野を勉強していくにしても必要な基本的知識が詰まっていると思う.

第1章「環論の基本」では,イデアルの話から,局所化,PIDやUFDなどという基本的な概念などが解説されている.本文の例題が分かりやすく,演習問題も解きやすかった.第2章「環上の加群」は簡単に言えばベクトル空間の一般化なので,線形代数をちゃんとやった人にとってはある程度スラスラ読める.テンソル積の部分でつまづくがじっくり読めば大丈夫だと思う.(1巻を読んでいても思ったことだが,)この著者は,行列の話をよく例に挙げているので,行列が好きなんだろうと思う.第3章「体論の基礎」では,体の拡大をちゃんと学べる.ガロア理論の教科書においては(初めから標数0の体を用意して)分離性を仮定してから,正規性を加えてガロア拡大を定義するものもある.しかし,この本では,一般の体における分離性,正規性をちゃんと解説してからガロア拡大を定義するので,全体像が掴みやすく,個人的には好きである.また,代数閉包の話もされている.第4章の「ガロア理論」では,基本的な定理から,3,4次の多項式のガロア群,方程式の可解性,円分体と作図問題などが細かく解説されている.また,整数論でよく出てくるトレースやノルムなどの概念も載っている.

演習問題は,難しい問題もあるが,例えば質問できる友人や先生が周りにいれば,全く問題はないだろう.また,第4章の問題は,少し複雑なガロア対応の問題もあるが,一度は考えたい問題が多いので,やって損はない.難しい場合は,問題集は別のものを使っても良いと思う.

前のシリーズのレビューはこちら

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