関数項級数の絶対収束・一様収束の例(arctan(x)に収束する関数項級数) - 高井セミナー

関数項級数の絶対収束・一様収束の例(arctan(x)に収束する関数項級数)

数学

最近,とある事情で以下のような問題を解いていました.この問題は面白い背景を含んでいて勉強になったので,ここで紹介しようと思います.

さて,問題はこのようなものです.

問題

区間$I=[0,1]$で定義された連続関数の列$\{f_n\}_{n=0}^{\infty}$を以下で定義する;$$f_n(x)=\sum_{i=0}^n(-1)^i \frac{x^{2i+1}}{2i+1}$$このとき,

(1)各$x \in I$に対して,数列$\{f_n(x)\}_{n=0}^{\infty}$は絶対収束するか?

(2)任意の$x \in I$に対して,関数列$\{f_n\}_{n=0}^{\infty}$はある関数$f$に各点収束するか?.また,その$f$はどのような関数か?

(ヒント)恒等式$$\sum_{i=0}^n(-1)^i t^{2i}=\frac{1-(-1)^{n+1}t^{2n+2}}{1+t^2}$$を用いてよい.

(3)$\{f_n\}_{n=0}^{\infty}$は$I$上で$f$に一様収束するか?

結論から言ってしまうと,(1)は$x \in [0,1)$では絶対収束し,$x=1$では絶対収束しない,(2)は各点収束し,$f(x)=\arctan(x) \quad (x \in I)$,(3)は一様収束する,という結果になります.これらをどのように導くかを考えていきます.

解答

まず(1)です.すなわち,$\sum_{i=0}^n|(-1)^i \frac{x^{2i+1}}{2i+1}| = \sum_{i=0}^n\frac{x^{2i+1}}{2i+1}$が収束するか?を聞いているので単純に場合分けして考えましょう.

・$x=1$のとき,$\sum_{i=0}^n\frac{1}{2i+1}$なので,$n \to \infty$のときこれは発散します.(これは有名です.調和級数が発散することからすぐにわかります.)

・$x \in [0,1)$のとき,$\sum_{i=0}^n\frac{x^{2i+1}}{2i+1}$は$a_i=\frac{x^{2i+1}}{2i+1}$とすると$\sum_{i=0}^n a_i$と書けます.ここで$$\lim_{i \to \infty}\left|\frac{a_{i+1}}{a_i} \right|=\lim_{i \to \infty}x^2 \frac{2i+1}{2i+3} = x^2 < 1$$であるので,数級数に関するダランベールの収束判定法により,$\sum_{i=0}^n\frac{x^{2i+1}}{2i+1}$は収束します.すなわち,$\{f_n(x)\}_{n=0}^{\infty}$は絶対収束します.

続いて,(2)です.ここで,恒等式$$\sum_{i=0}^n(-1)^i t^{2i}=\frac{1-(-1)^{n+1}t^{2n+2}}{1+t^2}$$を考えます.この恒等式の両辺を$[0,x]$上で積分すると,左辺と右辺はそれぞれ,

$$\int_0^x \sum_{i=0}^n(-1)^i t^{2i}dt = \sum_{i=0}^n \int_0^x (-1)^i t^{2i}dt=\sum_{i=0}^n(-1)^i \frac{x^{2i+1}}{2i+1}=f_n(x)$$

$$\int_0^x \frac{1-(-1)^{n+1}t^{2n+2}}{1+t^2}dt=\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt – (-1)^{n+1}\int_0^x \frac{t^{2n+2}}{1+t^2}dt$$

です.左辺はまさに$f_n(x)$,右辺は$\int_0^x \frac{1}{1+t^2}dt = \arctan x$の部分と,$n$に関係する部分の和で書けています.このことから,左辺と右辺第1項の差の絶対値を評価すると,

\begin{eqnarray} \left| f_n(x)-\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt \right| &=& \left| – (-1)^{n+1}\int_0^x \frac{t^{2n+2}}{1+t^2}dt \right|\\ &\le& \int_0^x \left| \frac{t^{2n+2}}{1+t^2} \right| dt\\ &\le& \int_0^x t^{2n+2}dt\\ &=& \frac{1}{2n+3}x^{2n+3} \to 0 \quad (as\quad n \to \infty) \end{eqnarray}

となります.このことから,$\lim_{n \to \infty}f_n(x)=\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt = \arctan x$と各点収束することがわかります.

続いて(3)ですが,これは上の評価から容易にわかります.$x \in I$に対して,$$\left| f_n(x)-\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt \right| \le \frac{1}{2n+3}x^{2n+3} \le \frac{1}{2n+3}$$より,$$\lim_{n \to \infty}\sup_{x \in I} \left| f_n(x)-\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt \right|=0$$なので,これは一様収束を意味します.

さてこの問題を考察してみましょう.

まず(2)で$f_n$が$I$上で$\arctan$に収束するという結果が出ましたが,これはこのように導くこともできます.

幾何級数(無限等比級数)$$\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-\cdots =\sum_{i=0}^{\infty}(-1)^ix^{2i}$$が$|x|<1$で収束し,$|x|>1$では発散する(すなわち,上の等式は意味を持たない)ことは高等学校で学ぶ知識です.これは右辺のべき級数の収束半径が1であることを意味しています.さてここで,べき級数は収束円,すなわち今の場合$|x|<1$では絶対収束することが知られています.さらに,べき級数に関して,項別積分の定理があります.それは以下のようなものです.

べき級数の項別積分

べき級数$\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n$は,収束半径が$r$であるとき,$(-r,r)$に含まれる任意の閉区間で一様収束しその和は連続である.なので(関数項級数の級数の項別積分定理より),$|x|<r$なる$x$に対して,$$\int_0^x\sum_{n=0}^{\infty}a_nx^n=\sum_{n=0}^{\infty}a_n\int_0^xx^n=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{a_n}{n+1}x^{n+1}$$が成立する.

この定理により,先程の幾何級数を$[0,x]$上で項別積分して,$$\int_0^x\frac{1}{1+x^2}dx=x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-\cdots \quad (|x|<1)$$となります.左辺はまさに$\arctan x$なので,すなわち$$\arctan x=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{x^{2i+1}}{2i+1} \quad (|x|<1)$$がわかります.この結果はまさに(2)の$x\in [0,1)$の場合の結果を表しています.もちろん収束円の内部なら,この収束は絶対収束ですので,この事実が(1)の結果の$x\in [0,1)$の場合の結果を表しています.

さて,あと問題になるのは$x=1$の場合の議論です.初めに与えた幾何級数の収束円内の点ではないので,この幾何級数は使えず,単純に$f_n(x)=\sum_{i=0}^n(-1)^i \frac{x^{2i+1}}{2i+1}$の$n \to \infty$に対しての議論をしなくてはいけません.解答(1),(2)では,$x=1$のときこの数列$\{f_n(1)\}$は(あるいは同じことだが,級数$\sum_{i=0}^{\infty}(-1)^i \frac{1}{2i+1}$が),絶対収束しないが収束する,すなわち条件収束するということが示されました.(1)の解答は単純に数級数の議論をしていますね.(2)の解答ではある恒等式を用いて不等式の評価をすることで任意の$x\in I$に対して$\{f_n(x)\}$が収束することを導きましたが,もちろん数列$\{f_n(1)\}$が条件収束することは単純に数列の収束性のよく知っている議論で示すこともできます.

このように,べき級数の収束円の境界上の点に対しては,(収束するしないも含めて)収束の仕方が様々です.項別積分したあとの級数の収束が保証されているのは,あくまでも収束円の内部だけだということが重要です.

とりあえずここまでのまとめをします.

(1),(2)は「解答」では直接示したが,背景として,次の等式が絡んでいる.$$\arctan x=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{x^{2i+1}}{2i+1}$$右辺のべき級数の収束半径は1である.なので,$|x|<1$で絶対収束する.これは,幾何級数$$\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-\cdots =\sum_{i=0}^{\infty}(-1)^ix^{2i}$$の収束半径が1であることと,項別積分定理を用いれば示すことができる.

さらに$x=1$でも条件収束する.これは,素直に((1)の解答でやったように,数級数の収束の議論により)示せる.(ちなみに上の幾何級数は$x=1$で収束しないので注意.)

さて,問題の解答に戻ってみると,(ヒント)の恒等式はパッと見,気持ち悪いですね.この恒等式はどこから現れたのかというと,ただの等比数列の有限和の公式です.(ヒント)の左辺$\sum_{i=0}^n(-1)^i t^{2i}$は,まさに初項$t^0=1$,公比$-t^2$,項数$n+1$の等比数列の有限和なので,単純に\begin{eqnarray} \sum_{i=0}^n(-1)^i t^{2i}&=& \frac{1(1-(-t^2)^{n+1})}{1-(-t^2)} \\&=& \frac{1-(-1)^{n+1}t^{2n+2}}{1+t^2} \end{eqnarray}です.見た目は気持ち悪くても,難しいことではなかったんですね.

では,なぜわざわざこのような恒等式を用いて$|f_n(x)-\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt|$を評価したのでしょうか.先程の考察のようにべき級数についての議論で済ませば良いのではないでしょうか?実は,「解答」のようにこの恒等式から評価をすることにより,(3)で一様収束の議論が圧倒的に早く済ませられています.もしこの評価が得られてないと,べき級数の収束円の境界上での一様収束性を調べないといけませんが,これは評価式を用いる解法よりも少し大変なことです.この(ヒント)はそのことを考えられて書かれているのですね.

さらに,この問題の結果をもう少し考察してみましょう.実は,円周率$\pi$についてのある式を導くことができます.$x=1$のときを考える(収束するので問題ありませんね.)と,$$\frac{\pi}{4}=\arctan 1=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{1}{2i+1}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\cdots$$となるので,$$\pi=4\left(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\cdots \right)$$となります.ただ,$\pi$の近似計算をするときは,この級数は収束が遅いため,実際にはあまり使われません.ちなみに,級数$1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\cdots$は,ライプニッツの級数と呼ばれています.

さて,ここまでの考察で,この問題には様々な背景があり,他の方法で求めることができることもわかりました.奥深い問題で面白いですね.

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