今回は,$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$が収束・絶対収束するための$s$の必要十分条件を考えます.結論から言うと,以下のようなことが知られています.
広義積分$$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$$が収束するための必要十分条件は,$0<s<2$である.また絶対収束するための必要十分条件は$1<s<2$である.
この広義積分は$x=0$と$x \to \infty$のところで問題となっているので,ある$c \in (0,\infty)$をとって$\int_0^c$と$\int_c^{\infty}$の収束性をそれぞれ確認すれば良いですね.今回は$\int_0^1$と$\int_1^{\infty}$に分けて考えようと思います.(ちなみに収束性はこの$c$のとり方に依存しません.それは,$c$の代わりに$c^{\prime}$をとっても,$\int_c^{c^{\prime}}$は通常の積分なので,収束性には影響しないことから分かります.)
さて,今からこの表を埋めていきます.他の問題にも対応できるように,できるだけ直接示していこうと思います.
$\int_0^1\frac{\sin x}{x^s}dx$ | $\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$ | |
$s \le 0$ | ||
$0<s<1$ | ||
$s=1$ | ||
$1<s<2$ | ||
$2 \le s$ |
まず$\int_0^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx$を考えます.
$s \le 0$のときは,被積分関数に特異点はなく,これは通常の積分ですので収束します.
それ以外の場合について,素直に広義積分の定義に従って考えていきましょう.
$0<\varepsilon<1$として,
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx &=& \int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x}x^{1-s}dx\\ &\le& \int_{\varepsilon}^{1}x^{1-s}dx
\end{eqnarray}
と評価できます.最後の不等式は,$x \in (0,1)$で$\frac{\sin x}{x} \le 1$であることを用いました.
ここで最後の式は,$1-s =-1$すなわち$s=2$なら,
$$\int_{\varepsilon}^{1}x^{1-s}dx=-\log \varepsilon \to \infty \quad (as \quad \varepsilon \to +0)$$
であり,$1-s \neq -1$すなわち$s \neq 2$なら
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{1}x^{1-s}dx=\frac{1}{2-s}(1-\varepsilon^{2-s}) \to
\begin{cases}
\infty & ( 2-s < 0 ) \\
\frac{1}{2-s} & ( 2-s > 0 )
\end{cases}
\quad (as \quad \varepsilon \to +0)
\end{eqnarray}
であるので,結局,$2-s > 0$すなわち$s < 2$のとき,
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx &\le& \int_{\varepsilon}^{1}x^{1-s}dx \to \frac{1}{2-s} \quad (as \quad \varepsilon \to +0)
\end{eqnarray}
が分かりました.$x \in (0,1]$で$\frac{\sin x}{x}$は正の値なので,$\int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx$は$\varepsilon \to +0$で(積分区間が増大するため,)増大します.$s<2$のときに上に有界($\frac{1}{2-s}$で抑えられている)ということなので,これは収束します.
さて,ここまでの議論で$s<2$なら$\int_0^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx$は収束することがわかりましたが,これが絶対収束であることは,全く同じ議論で示されます.なぜなら,$x \in (0,1]$で$\frac{\sin x}{x}$は正の値なので,$\int_{\varepsilon}^{1}|\frac{\sin x}{x^s}|dx=\int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx$だからです.もちろん$s \le 0$のとき(通常の積分のとき)も同様です.
また,ここまでの議論では$2 \le s$で発散することは示されていませんので,そこを示していきます.
ここで$x \in [0,\frac{\pi}{2}]$のとき$\frac{2}{\pi}x \le \sin x$であることから,$x \in (0,1]$において$\frac{2}{\pi x} \le \frac{\sin x}{x^2}$なので,$2 \le s$のとき,
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^s}dx
&\ge& \int_{\varepsilon}^{1}\frac{\sin x}{x^2}dx\\
&\ge& \int_{\varepsilon}^{1}\frac{2}{\pi x}dx \\
&=& \frac{2}{\pi}(-\log \varepsilon) \to \infty \quad (as \quad \varepsilon \to +0)
\end{eqnarray}
となり,発散することがわかります.
ちなみに,議論③で用いた不等式$$\frac{2}{\pi}x \le \sin x \quad (x \in [0,\frac{\pi}{2}])$$は,$y=\frac{2}{\pi}x$と$y=\sin x$のグラフを書けば簡単に理解できます.この不等式は,よく複素関数論(の応用)の複素積分の値の評価で用いられます.(複素積分を勉強したことがある人なら,見覚えがあると思います.)
ここまでの議論で分かったことをまとめてみます.
$\int_0^1\frac{\sin x}{x^s}dx$ | $\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$ | |
$s \le 0$ | (絶対)収束 (議論①) | |
$0<s<1$ | (絶対)収束 (議論②) | |
$s=1$ | (絶対)収束 (議論②) | |
$1<s<2$ | (絶対)収束 (議論②) | |
$2 \le s$ | 発散 (議論③) |
次に,$\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$を考えます.
$s \le 0$のとき,$\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$は明らかに発散します.
もう少し詳しくいうと,$\frac{\sin x}{x^s}=x^{-s}\sin x$は$x \to \infty$で振動するので,$M>1$として$\int_1^{M}\frac{\sin x}{x^s}dx$を考えると,$M \to \infty$でこれも振動します.すなわち,$\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$は発散します.
$0<s \le1$とします.広義積分の収束に関するコーシーの判定法を用いて,$\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$が収束することを示していきます.
$0<p<q$として,
$$\int_p^q\frac{\sin x}{x^s}dx=\left[ \frac{-\cos x}{x^s} \right] – \int_p^q\frac{\cos x}{x^{s+1}}dx$$より,
\begin{eqnarray}
\left| \int_p^q\frac{\sin x}{x^s}dx \right|
&=& \left| -\frac{\cos q}{q^s} +\frac{\cos p}{p^s} -\int_p^q\frac{\cos x}{x^{s+1}}dx \right| \\
&\le& \frac{1}{q^s}+\frac{1}{p^s}+\int_p^q\frac{1}{x^{s+1}}dx \\
&=& \left( 1-\frac{1}{s} \right)\frac{1}{q^s}+\left( 1+\frac{1}{s} \right)\frac{1}{p^s} \\
&\le& \left( 1+\frac{1}{s} \right)\frac{1}{p^s} \to 0 \quad (as \quad p \to \infty)
\end{eqnarray}
となることから,コーシーの判定法により収束します.
さて,この議論⑤で,$0<s \le1$のとき$\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$が収束することがわかりました.しかし実はこれは絶対収束ではありません.(すなわち,条件収束です.)これを示していきます.
$(0<)s \le 1$に対して,$\int_1^{\infty}|\frac{\sin x}{x^s}|dx$が発散することを示します.
$n \in \mathbb{N}$として,
\begin{eqnarray}
\int_{n\pi}^{(n+1)\pi}\frac{|\sin x|}{x^s}dx
&=& \int_{0}^{\pi}\frac{\sin t}{(t+n\pi)^s}dt \\
&>& \frac{1}{(t+n\pi)^s}\int_{0}^{\pi}\sin t dt \\
&=& \frac{2}{\pi^s}\frac{1}{(n+1)^s}
\end{eqnarray}
であるから,
\begin{eqnarray}
\int_{1}^{n\pi}\frac{|\sin x|}{x^s}dx
&=& \sum_{k=1}^{n-1} \int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin x|}{x^s}dx \\
&>& \sum_{k=1}^{n-1} \frac{2}{\pi^s}\frac{1}{(k+1)^s}\\
&=& \frac{2}{\pi^s} \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{(k+1)^s} \\
&=& \frac{2}{\pi^s} \sum_{k=2}^{n} \frac{1}{k^s}
\end{eqnarray}
となり,$(0<)s \le 1$のとき$\sum_{k=2}^{n} \frac{1}{k^s} \to \infty \quad (as \quad n \to \infty)$より,$\int_1^{\infty}|\frac{\sin x}{x^s}|dx$も発散します.
さて,最後に,$1<s$のときを考えていきましょう.このときは,絶対収束であることが簡単にわかるので,これを示していきます.(絶対収束ならば収束なので,この議論だけで十分です.収束を示すより絶対収束を示す方が簡単な場合は,お得です(?).)
$1<s$のとき,$\int_1^{\infty}|\frac{\sin x}{x^s}|dx$が収束することを示します.$x\ge 1$において,
$$\left|\frac{\sin x}{x^s} \right| \le \frac{1}{x^s} $$であり,$1<s$のとき$$\int_1^{\infty}\frac{1}{x^s}dx$$は収束します.よって,優関数定理より,$\int_1^{\infty}|\frac{\sin x}{x^s}|dx$は収束します.
ちなみに,今の議論で優関数定理と言いましたが,これは単純に(真面目に)広義積分の計算をするのとほとんど変わりません.(素直に,$M>1$として$\int_1^{M}$を考え,同じ積分区間で収束するような関数(優関数)で上から評価してあげたら,$M \to \infty$で増加かつ上に有界であることから,収束することがすぐにわかります.優関数定理は,それを定理として言ってるだけです.)
さて,ここまでで分かったことを表にまとめてみましょう.
$\int_0^1\frac{\sin x}{x^s}dx$ | $\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$ | |
$s \le 0$ | (絶対)収束 (議論①) | 発散(議論④) |
$0<s<1$ | (絶対)収束 (議論②) | (条件)収束 (議論⑤,⑥) |
$s=1$ | (絶対)収束 (議論②) | (条件)収束 (議論⑤,⑥) |
$1<s<2$ | (絶対)収束 (議論②) | (絶対)収束 (議論⑦) |
$2 \le s$ | 発散 (議論③) | (絶対)収束 (議論⑦) |
以上のことから,$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dx$が収束・絶対収束するための$s$の必要十分条件を考えると,
\begin{eqnarray}
\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dxが収束
&\iff& \int_0^{1}\frac{\sin x}{x^s}dxが収束,かつ\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dxが収束 \\
&\iff& s<2 かつ 0<s \\
&\iff& 0<s<2
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x^s}dxが絶対収束
&\iff& \int_0^{\infty}\left| \frac{\sin x}{x^s} \right| dxが収束 \\
&\iff& \int_0^{1}\left| \frac{\sin x}{x^s} \right|dxが収束,かつ\int_1^{\infty}\left| \frac{\sin x}{x^s} \right|dxが収束 \\
&\iff& s<2 かつ 1<s \\
&\iff& 1<s<2
\end{eqnarray}
という結果が得られました.
それぞれの議論はあくまで一例であり,他にも示し方は色々あるので,考えてみてくださいね.例えば,$s=1$のときの$\int_0^1\frac{\sin x}{x^s}dx$の収束性は,議論②のように真面目にやらなくても,$\frac{\sin x}{x} \to 1 \quad (as \quad x \to +0)$より,収束性が問題になることはありません.詳しく言えば,$x=0$の近傍で,優関数として定数関数が取れるので,有限区間の積分が発散することはありません.
ちなみに,$s=1$のときのこの広義積分$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x}dx$は,ディリクレ(Dirichlet)積分と言われていて,$$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x}dx=\frac{\pi}{2}$$であることが知られています.この値は,例えば複素積分を用いて導出することができます.(工学部の複素関数論の講義では,大抵やると思います.)
Dirichlet積分とその関連事項について,色々考察されているサイトがあったので,リンクを貼っておきます.
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