今回は,高校生や高専生の数学指導をしている中で気になった,絶対値の扱い方と考え方というテーマで書きます.
実数の絶対値とは
この記事では,実数の絶対値を考えます.(もっと一般の集合上でも絶対値を考えることもできますが,ここでは通常の絶対値を考えます.)
実数に対する絶対値の概念は,通常は中学校ではじめて学ぶと思います.中学校では,このように口うるさく言われます.
「絶対値は,数直線上の原点からの距離である!」
たしかに,正しいです.(距離とは何なのかという議論は,とりあえず深入りしないことにします.)数学が得意な子には,適切な説明だと思います.しかし,この説明だけでは,生徒が偏った考え方に陥ってしまう場合もあると考えられます.
ここでは,\(a \in \mathbb{R}\)の絶対値を\( |a| \)と書くことにします.上のような教え方をされれば,例えば\( |2|=2 \)や\( |-3|=3 \)は理解できるでしょう.ここで,一定の生徒は単に,普通の数字はそのまま,マイナスのついた数字は「マイナスを外して答える」と思って答えを出すという作業にシフトしていくことでしょう.この考え方は,中学校などでは通用するかもしれませんが,高等学校以降では通用しないと考えられます.
「絶対値をとる」は関数だと思え!
そもそも,実数の絶対値の定義は以下のとおりです.
関数\( |・|:\mathbb{R} \to \mathbb{R}_{\ge 0} \)であって,\( x \in \mathbb{R}\)に対して
\begin{eqnarray}
|x|
=
\begin{cases}
x & ( x \ge 0 ) \\
-x & ( x \lt 0 )
\end{cases}
\end{eqnarray}
であるもの.
(ただし,\( \mathbb{R}_{\ge 0} = \{ \alpha \in \mathbb{R} \mid \alpha \ge 0 \} \)とする.)
もちろん,中高生にこの定義を理解してもらうのは難しいですが,絶対値は関数であるという感覚を身につけられるように,(特に高等学校の)教員は指導をすべきだと思います.
例えば,「実数を入力すると,それが正(非負)ならそのままの値を出力,負なら-をつけて(正にして)出力するものだよ」と教えることが予測されます.
今まで中高生などを指導してきた中でよく見られた,ミスは次のようなものがあります.上のような認識があれば,これらは減ると思われます.
生徒にみられる誤解,不明点
1.\( |x| \)のように,絶対値の中に文字が入ると良く分からない.
2.\(a\)を実数の定数とするとき, \( |a| = \pm a\)であると思ってしまう.
3.\( |f(x)| \)のような,絶対値を含む関数がよく分からない.\(x\)の値について場合分けできない(場合分けするという発想にならない).
などが挙げられます.上の定義(やその感覚)を身につけていれば,起こりえないことだと思います.
私自身,授業等でどのように指導すべきか,教員の目線でさらに考えていくことが課題です.数学教育って難しいですね.
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